論文概要

2015~2019年

Yoshida, M. (2019) Phys. Fluids
マントルと外核を想定したこれまでの二層対流系モデルを用いて、マントルが上部・下部マントル境界で対流が一時的に妨げられやすい過去のマントル対流パターンと現在の全マントル対流パターンにおけるコア・マントル境界近傍の力学状態と温度状態の違いを調べた。その結果、過去の地球では、現在の地球と比較して、コア・マントル境界(CMB)直下の水平温度不均質のスケールがより長波長になり、また、CMBにかかる剪断応力の解析から自由滑り境界の状態により近くなることが分かった。
Cui, R. et al. (2019) PAGEOPH
最近の二つの全球S波トモグラフィーモデル(SEMUCB_WM1、S40RTS)を用いて、リソスフェアの水平粘性不均質とマントルの粘性率の温度依存性を考慮した瞬間マントル流れ計算からジオイド異常を計算した。活性化エネルギーの値について岩石実験の結果に基づく二つのエンドメンバーモデルから得られる計算ジオイドと観測ジオイドとを比較した結果、両トモグラフィーモデルとも、上部・下部マントルの粘性率比が70~80程度のとき最も高い相関係数(0.7以上)が得られることが分かった。
Iwamori, H. et al. (2019) Comptes Rendus Geoscience
微量元素の濃集に基づいたマントルの地球化学的東西半球構造を調べるためにに、同位体比87Sr/86Sr、143Nd/144Nd、206Pb/204Pb、207Pb/204Pb、208Pb/204Pbに加え、Rb、Sr、Nd、Sm、Pb、Th、Uを持つ玄武岩のデータを解析した。その結果、微量元素の分布はメルト交代作用と流体交代作用を受けたマントル源の溶融によって説明できることを示した。このことは、東半球で沈み込むプレートからもたらされる流体成分の多くが玄武岩由来であり、超大陸に向かう沈み込みがマントルの東西半球構造を作るという仮説を支持する。
Yoshida, M. (2019) Terra Nova
現在から未来までのマントル対流の三次元数値計算を行い、大陸移動の原動力を調べた。その結果、3~5億年後までに形成される次の超大陸の形成過程は、リソスフェアの破壊強度や上部・下部マントルの粘性率比等、レオロジーの重要パラメータの違いに大きな影響を受けることが分かった。また、移動する大陸の安定部底面に働く伸張・圧縮場の応力絶対値は10MPa程度(ただし、大陸の縁辺域では100MPa程度に達する)でこれはスラブ引張り力の典型的なオーダーと同程度であることが分かった。
吉田 晶樹 (2019) パリティ
プレートテクトニクス50年の今も,固体地球科学のさまざまな研究分野が地球表層活動の物理的理解を追い求めている。今後,地球内部について,物理学的研究のみならず物質科学的研究からの理解もさらに深まれば,プレートテクトニクス理論はマントル・コアダイナミクスに係わる普遍的現象をも包含する大統一理論にまで発展するかもしれない。また,地球内部対流の数値実験については,海溝型巨大地震や内陸大地震の将来予測など,防災・減災分野にもやがて寄与できるようになるだろう。
Yoshida, M. (2018) Phys. Fluids
地球のマントル・外核・内核の三層構造を想定し、二次元極座標領域において外側に高粘性層(HVL)、内側に低粘性層(LVL)、その中心に高粘性層(IML)を持つ三層系の熱対流の数値計算を行った。その結果、IML(内核に相当)が時間に従って成長するモデルでは、LVLとIMLの境界がLVLにとって等温の底面境界の役割を果たすことによって、IMLを考慮しない場合と比較して、LVLの温度構造、及び、HVLとLVLの境界直下の水平温度異常のパターンが長波長になることが分かった。
Yoshida, M. and Santosh, M. (2018) Geosci. Front.
過去2億年前から現在・未来までのマントル対流の数値シミュレーション結果によって大陸移動の原動力について考察した。実際の地球の時間スケールでインド亜大陸の高速北進を実現するためにはパンゲアの熱遮蔽効果に伴う広範囲な高温領域が必要で、その熱源はマントル遷移層の底付近に蓄積されたTTGを起源に持つ上昇プルームであると考える。また、大陸の底面に作用する「大陸下マントル曳力」の大きさを定量的に見積もると、スラブ引っ張り力と同程度のオーダーであることが分かった。
Yoshida, M. et al. (2017) Phys. Fluids
これまでの二次元数値モデルに基づき、粘性率が大きく異なる二層対流の熱輸送に関する詳細な時空間解析を行った。その結果、球殻内側の低粘性層(LVL)の大規模な流れのパターンは外側の高粘性層(HVL)に同期し、力学カップリングと熱的カップリングで上昇・下降流の対応関係が逆転することや、両モード間の遷移がLVLの上部からの不安定により駆動することなどが分かった。この結果は最近の地球化学研究から示唆される地表からコアまでのトップダウンの熱輸送方式と調和的である。
Yoshida, M. (2017) Tectonophys.
2016年熊本地震とその余震の地震メカニズムを解析して、九州島の中央地域の「断層型」を再検討した。その結果、この地域の断層型は、布田川・日奈久断層近傍の横ずれ断層型とその断層の北側に沿う正断層型が卓越することが分かった。断層型の定義に基づくと、これらの二つの断層型はこの地域の地殻内応力場を特徴付ける一つのセットとして扱うことができ、この断層帯付近の大きな歪みエネルギーの蓄積、さらには、後期中新世以降の九州島の広域応力場の変遷を説明できることを示した。
Yoshida, M. (2017) Phys. Earth Planet. Int.
海溝が動的に自由に移動する三次元プレート沈み込みのシミュレーションを行った。その結果、これまでよく知られていたプレートの沈み込みに伴うマントルウェッジ内の補償流に加えて、さらにプレートが沈み込んでマントル遷移層底部付近に横たわると、その横たわったプレートの規模に対応したさらに大規模な反流を生み、マントルウェッジ最上部の強い水平方向の流れが沈み込むプレートをさらに後退させるというフィードバックのメカニズムが働いていることを解明した。
Yoshida, M. (2017) Phys. Earth Planet. Int.
これまで地球型惑星のマントル対流の数値シミュレーションで使われている支配方程式の近似法は5つの無次元パラメータを用いて5種類に分けられる。そのうちの一つは拡張ブジネスク近似とブジネスク近似の中間で、最近「superadiabatic Boussinesq approximation」と明示的に名付けられ、これは散逸数とレイリー数の比をゼロとする近似である。5つの無次元パラメータは物理的には4つの無次元パラメータに整理でき、その結果、支配方程式の近似法は4種類になる。
Yoshida, M. and Hamano, Y. (2016) Phys. Fluids
粘性率が異なる二層を持つ高解像度のプラントル数無限大・二次元球殻モデルを開発し、熱対流の数値シミュレーションを行った。球殻外側の高粘性層(HVL)と球殻内側の低粘性層(LVL)の粘性率比は最大10^3とした。その結果、粘性率比が大きくなると、LVLの対流速度はその有効レイリー数の増加にしたがって増加するが、HVLのヌッセルト数と対流速度は一定値に漸近することが分かった。つまり、HVLの対流が二層対流系の熱輸送効率を規定していることになる。
Yoshida, M. (2016) Geology
マントル対流の数値シミュレーションによって、現在から約2億5000万年後までの大陸の分布とマントル対流の時間変化を調べた。その結果、2億5000万年後までには、北半球に現在のユーラシア、アフリカ、オーストラリア、北アメリカ大陸を中心とする超大陸が形成されることが明らかになった。また、日本列島は、北半球に留まるユーラシア大陸と南半球から高速で北進するオーストラリア大陸の間に挟まれ、新しい超大陸の一部となることも予測された。
吉田 晶樹 (2015) 地質学雑誌 (J. Geol. Soc. Japan)
実際のプレートは有限の粘性率を持つため、完全な剛体運動ではなく、内部変形をしながら運動しているはずである。最近のマントル対流の数値シミュレーション結果や大規模地下構造探査による地震学的証拠から、プレート直下のマントルの流れが生み出すマントル曳力もプレート運動や大陸移動の主要な原動力となり得ることが明らかになってきた。その場合、それらの原動力として、スラブ引っ張り力とマントル曳力のどちらが大きいのかという新たな難題が生まれる。
Adam, C. et al. (2015) Earth Planet. Sci. Lett.
マントルダイナミクスと海洋リソスフェアの成長(年代による沈降)の関係を調べた。地球上の海洋底の成長に関係するパラメーターに基づく統計的解析の結果、リソスフェアの有効熱伝導率の大きさにかかわらず、沈降速度と海嶺からの高さのみで海洋底の地形のパターンを説明することができた。さらに、地震波トモグラフィーモデルに基づく全マントルでの対流シミュレーションモデルでダイナミックトポグラフィーを解析した結果、実際の海底地形の高さをよく再現することがわかり、マントルの対流運動と海洋リソスフェアの成長は密接な関係があると結論した。
Yoshida, M. and Hamano, Y. (2015) Sci. Rep.
三次元球殻内マントル対流の数値シミュレーションを実施し、2億年前から現在までの大陸移動の様子を調べた。その結果、大陸と海洋マントルとの粘性率比が10^3の場合に、実際の地球の時間スケールで、大西洋の拡大やインド亜大陸の高速北進とユーラシア大陸への衝突などのイベントが再現され、現在の地球に近い大陸配置が再現された。特に、パンゲアの分裂は超大陸の熱遮蔽効果によるパンゲア直下のマントルの高温異常が大きく寄与することが分かった。
Tajima, F. et al. (2015) Geosci. Front.
P波の地震波形の新しい解析により分かった660 km不連続面の深さの変化と低速度地震波異常から、660 km相境界付近で沈み込みスラブが脱水し、高圧実験の結果から遷移層でのスラブの脱水は非常に局所的であるという仮説を提唱した。次に、沈み込みスラブにより水が遷移層まで輸送されていると仮定した三次元のプレート沈み込み数値シミュレーションを行い、海洋地殻が遷移層底部で一時的、長くても1000万年の時間スケールで滞留しうることが分かった。
吉田 晶樹 (2015) 科学
プレートテクトニクス理論は、地球上に存在する大陸プレートや海洋プレートの内部や側面にさまざまな力がかかっていることで説明できる。1970 年代以降、地表からマントルの中へ沈み込むプレート(スラブ)が、プレート運動の主要な原動力とされてきた。一方、プレートの下面を引きずるマントル(アセノスフェア)の流れがプレート運動の原動力になっているのか抵抗力になっているのかはいまだよく理解されておらず、現在も研究が進んでいる。