論文概要

2010~2014年

Yoshida, M. (2014) J. Geodyn.
ホットスポットの分布とマントル深部の「大規模低地震波速度領域」(LLSVP)の地理的関係がアフリカ大陸周辺と南太平洋周辺で異なることを最新の地球科学的研究に基づいて議論した。その結果、アフリカ大陸周辺のホットスポットの分布がLLSVPの縁に集中しているのは、マントル遷移層底部に滞留している放射性熱源を持つ大陸地殻にホットスポットプルームの起源があるためで、最上部下部マントルに低粘性層がある場合、そのようなプルームがより発生しやすいと結論した。
Yoshida, M. (2014) Geophys. Res. Lett.
2億年前の超大陸パンゲアを考慮した三次元全球殻内のマントル対流シミュレーションを行った。海洋リソスフェアの破壊強度(降伏応力)とマントルの加熱モード(コアからの加熱の有無)に関して系統的なシミュレーションを行った結果、CMBからの積極的なマントル上昇流がなくてもパンゲアの分裂とその後の大陸移動が起こることが分かった。さらに、本モデルでは、加熱モードの違いに限らず、非常に限られた降伏応力の値のもとで自発的な大陸分裂が起こることが分かった。
Adam, C. et al. (2014) Phys. Earth Planet. Int.
従来のモデル(Adam et al., 2010)の領域を全マントルに拡張し、上部・下部マントルそれぞれの密度異常、及びマントルの粘性率構造が南太平洋上の大規模地形やジオイド異常の振幅やパターンに及ぼす影響について系統的なパラメータ・スタディで調べた。その結果、南太平洋スーパースウェルの起源は下部マントルの密度異常に起源を持つマントルの高速の上昇流によるもので、特に低粘性のアセノスフェアが存在する場合にスーパースウェルとジオイド異常の両方の正負の振幅パターンが説明できることを突き止めた。
Yoshida, M. and Santosh, M. (2014) Geosci. Front.
大陸リソスフェアの離合集散が実現可能な三次元全球殻内のマントル対流の数値シミュレーションを行った。仮想的な形をもつ超大陸を構成する大陸片を取り囲む変動帯(低粘性帯)の粘性率、及び、大陸片同士の「リフト帯」の粘性率をさまざまに変化させた系統的なシミュレーションの結果から、実際の地球史における大陸の離合集散は外向パターン(古い海洋底が閉じるパターン)と内向パターン(新しい海洋底が閉じるパターン)の組み合わせで実現されることを示唆した。
Yoshida, M. (2013) Geophys. Res. Lett.
海洋地殻層とハルツバーガイト層(H層)を考慮したプレート沈み込みの数値シミュレーションを行った。その結果、遷移層底部付近の停滞スラブは、H層の粘性率の大きさに関わらず、上部・下部マントル境界の粘性率比が100倍程度の場合に形成されることが分かった。また、その粘性率比が100倍程度の場合、スラブがその「踵」から下部マントルに沈み込み始める過程において、地殻層もH層と一体となって屈曲しながら下部マントルに沈み込む様子が確認された。
Yoshida, M. and Tajima, F. (2013) Phys. Earth Planet. Int.
三次元部分球殻領域でのプレート沈み込みの数値シミュレーションを実施した。その結果、マントル遷移層が水に富んだ条件では、高圧実験により示唆される海洋地殻層の粘性低下の効果により、プレートが遷移層底部で水平方向に停滞する時間が長くなり、また、地殻層もプレート本体から分離して一時的に遷移層に滞留することが分かった。特に遷移層直下のマントルに低粘性層が存在する場合には、プレート本体の屈曲により地殻層は遷移層底部で褶曲構造を示すことも分かった。
Yoshida, M. (2013) J. Vis.
三次元球殻内の二種類の定常マントル対流における流れ場のトーラス構造(マントル対流の基本構造)を初めて可視化し、さらに、全球地震波トモグラフィーモデルから推定した密度異常分布に基づいてシミュレートされた三次元球殻マントル内の速度場を可視化するための新しい技法を提案した。本論文は、独創的可視化技術の開発や可視化しにくい対象や現象をとらえた論文の著者に授与される「可視化情報学会平成25年度学会賞(映像賞)」を受賞した。
Yoshida, M. (2013) Geophys. Res. Lett.
独自に開発した数値計算手法を用いることにより、自在に変形する大陸リソスフェアの移動を考慮した三次元全球殻マントル対流モデルを構築した。その結果、超大陸サイクルの鍵となる現象が確認され、移動する大陸下の深部マントルの平均温度異常はたかだか±10℃で、マントルの平均温度よりもやや低温である時代が多いこと、また、再び集合した超大陸直下の熱遮蔽効果によるマントルの高温領域でも、たかだか+50℃以内であることなどが分かった。
Adam, C. et al. (2013) Earth Planet. Sci. Lett.
大西洋の三重会合点にあるアゾレス海台の起源とその下のマントルダイナミクスを調べるために、高解像度地震波トモグラフィーモデルを基にマントルの定常速度場を部分球殻領域で解析した。その結果、アゾレス海台やテルセイラリフト周辺のダイナミックトポグラフィーのパターンや正断層型が卓越するプレート内応力場のパターンは、その直下のマントルの温度異常で説明可能で、これは現在のマントルダイナミクスを反映していることを示唆した。
Yoshida, M. (2012) Phys. Earth Planet. Int.
マントルの上昇プルームが運ぶ質量フラックス、及び熱流量を見積もるため、三次元全球殻マントル対流モデルを用いて、現在のマントルの定常速度場計算を行った。その結果、南太平洋火山群の各ホットスポットプルームが運ぶ質量フラックスは、660 km相境界直下において、たかだか1 Mg s^{-1}のオーダーで、この値は観測される海底のホットスポット・スウェルから理論的に見積もられる質量フラックスと同じオーダーであることが分かった。
Yoshida, M. et al. (2012) J. Geophys. Res.
海洋地殻層を考慮した三次元部分球殻領域でのプレート沈み込みの数値シミュレーションを行った。このモデルでは、マントル遷移層が水に枯渇した条件では含水による地殻(ガーネット)の粘性率の低下を考慮した。その結果、遷移層に沈み込むスラブが遷移層底部付近で横たわるとき、地殻の粘性率が低下する効果により、遷移層が水に枯渇した条件よりも、沈み込むプレートが水平方向に横たわりやすく、遷移層に滞留する時間も比較的長くなることが分かった。
Yoshida, M. (2012) Tectonophys.
マントルと化学組成が異なり、高い粘性率を持つ大陸リソスフェアを考慮した三次元部分球殻内のマントル対流の数値シミュレーションを行った。その結果、大陸リソスフェア縁辺での変動帯(低粘性帯)の存在が、地質学的時間スケール(10億年以上)にわたる大陸リソスフェアの安定性に重要な役割を果たし、大陸リソスフェアがもつ高粘性(マントルとの粘性率比は10^3)の性質はその安定性に対して二次的な役割を果たすことが分かった。
Yoshida, M. and Santosh, M. (2011) Terra Nova
変形と移動が可能な大陸が考慮されたマントル対流の数値シミュレーションによって、未来の大陸配置の分布と超大陸の形状の予測を試みた。その結果、未来の大陸配置はマントルの密度異常モデルの違いには大きく依存せず、シミュレーションの開始時に地表面の速度境界条件として与えた現在のプレート運動のパターンに依存することを示した。また、南極大陸と南米大陸を除く大陸は数億年後に北半球に集まり、北半球に新しい超大陸が形成される可能性を示した。
Yoshida, M. and Santosh, M. (2011) Earth-Sci. Rev.
超大陸サイクルとマントル対流との熱的・力学的相互作用に関して議論した。地質学的視点から示唆されることは、マントル遷移層やコア・マントル境界に沈み込んだ地殻物質に含まれる放射性元素による発熱が、大規模上昇流の成因、及びその後の大陸分裂に重要な役割を果たす可能性があるということである。地球物理学的視点から示唆されることは、地球史を通じて大陸移動とマントル対流の間には、重大な熱的・力学的フィードバックがあるということである。
Morishige, M. et al. (2010) Phys. Earth Planet. Int.
東北日本弧で沈み込む太平洋プレートの下、海洋側の深さ410 km相境界付近に存在する地震波低速度異常(高温異常領域)の起源を調べるために、二次元矩形内、及び、二次元球殻内のマントル対流の数値シミュレーションを行った。その結果、この高温異常領域は、下部マントル内で放射性熱源や粘性散逸によって加熱されたマントルが断続的にマントル遷移層に上昇し、410 km相境界付近まで運ばれたものであることを示唆した。
Yoshida, M. (2010) Earth Planet. Sci Lett.
自由に変形・移動する大陸リソスフェアを考慮した三次元部分球殻内のマントル対流の数値シミュレーションモデルを世界に先駆けて開発した。実際の地球のレイリー数を持つマントルと化学組成が異なる大陸構成物質の移流は追跡粒子法を用いて解いた。シミュレーションの結果、超大陸の周囲が変動帯(低粘性帯)に囲まれている場合に、ウィルソンサイクルの鍵となる現象(熱遮蔽効果による大陸分裂や数億年後の大陸同士の衝突など)が実現された。
Adam, C. et al. (2010) Geophys. Res. Lett.
ホットスポットが集中する南太平洋下のマントルダイナミクスの解明を試みた。その結果、南太平洋下のマントル上昇流の複雑な振る舞いや、特徴的なテクトニクス(ホットスポット・スウェルなど)を説明することができた。また、各ホットスポットに対応する上昇プルームが運ぶ熱流量を理論的に推定したところ、従来の観測結果と非常に良い相関関係が得られた。これらの結果は地球表層の観測量とその下のマントルの運動の直接的な関係を示唆するものである。
Yoshida, M. (2010) Geophys. J. Int.
実際の地球マントルのレイリー数を考慮した三次元球殻内のマントル対流の数値シミュレーションを行い、超大陸の形成に起因する上昇プルームの発生が超大陸の応力場に及ぼす影響を調べた。その結果、超大陸の縁辺でのプレートの沈み込みに伴って5000万年から1億年の時間スケールでCMBから上昇プルームが発生し、その上昇プルームは超大陸を分裂させるのに十分な大きさ(10 MPaのオーダー)を持つ伸張応力場を生み出すことが分かった。