- 独自の計算格子系(通常の球座標格子の低緯度領域を二つ組み合わせた格子)を用いて、格子法に基づく実用的な三次元球殻マントル対流の数値シミュレーションプログラムを世界で初めて開発した。これにより、複雑なレオロジー(流動特性)を持つマントル対流のシミュレーションが可能になり、マントル対流の基本構造の物理の解明のみならず、下記2~4の研究にも貢献した。
- 大陸の離合集散を再現するマントル対流の数値シミュレーションを世界に先駆けて実施した。特に、大陸移動の主要な原動力の一つとして、スラブ引っ張り力のみならず、マントル引きずり力も重要であることを示唆した。また、約2億年前から現在までの大陸移動を再現し、また、未来の地球に新しい超大陸「アメイジア」が形成されることを世界で初めて数値モデルで予測した。
- さまざまな地球物理学的観測量を拘束条件としたマントル対流の数値モデリングにより、地球の表層運動や地質現象(南太平洋の海底地形の高まり、ホットスポットの形成、海水準変動など)が、マントル最上部のダイナミクスと強く関係することを明らかにした。また、海洋プレートとともにマントルに沈み込んだ地殻層がマントル遷移層でプレートから剥離することも明らかにした。
- 粘性率が大きく異なるマントルと外核の熱対流運動を別々ではなく一つの熱対流システムでシミュレートすることに成功し、二層対流のカップリングの基本物理を解明した。特に、マントル対流が地球全体の熱輸送効率を規定していること、コア・マントル境界直下の外核最上部の流体がマントル対流によって引きずられることにより、外核からマントルへの熱流量が抑制されることを明らかにした。
研究紹介
吉田は、これまで地球内部の変動と進化、特にマントルダイナミクスとプレートテクトニクスに関する課題を、主に数値シミュレーションや理論解析、地球物理学的観測量のデータ解析の手法を用いて研究を行ってきた。その代表的な成果は以下の通りである。
主要業績
主要論文
- Izumi, M., Hirauchi, K., and Yoshida, M. , Mantle-wedge alteration facilitates intra-oceanic subduction initiation along a pre-existing fault zone, Tectonophys., 861, 229908, 2023.
伊豆・小笠原・マリアナ(IBM)弧では、約5200万年前に沈み込みが開始しました。この沈み込みは、海洋プレート内の断裂帯を挟む横ずれ運動によって起こったと考えられます(A)。そこで本研究では、二次元粘弾性体・熱組成対流モデルを用いた数値計算により、海洋プレート内で沈み込みが開始する力学条件を調べました。その際、地殻とマントルの変形様式を決定する流動則パラメーターは岩石変形実験に基づく現実的な値を考慮し、また、断裂帯を挟む両プレートの年代差も当時のIBM弧を想定しました。その結果、含水下にある断裂帯の破壊強度がおよそ7 MPa以下のときに自発的な沈み込みが起きることがわかりました(B)。また、一方の海洋プレートが沈み込もうとしたとき、そのプレートからの脱水(スラブ脱水)によるマントルウェッジの局所的な粘性低下がさらに沈み込みを促進させることも確認しました。本研究は、当時のIBM弧で1000万年以下の時間スケールで持続的な沈み込みが完成されたことを示唆します。 - Yoshida, M. and Yoshizawa, K., Continental drift with deep cratonic roots, Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 49, 117-139, 2021.
地球のほとんどの大陸リソスフェアは、クラトンと呼ばれる、大陸の芯に相当する領域をもっています。クラトンの存在が地球の歴史を通じて大陸移動に及ぼしてきた影響を知ることは、プレートテクトニクスの歴史を語る上で重要な要素です。われわれの地球物理モデルに基づく数値シミュレーション研究から、クラトンはその下のマントルと力学的に適度にカップルしており、地球史の時間スケールで安定した大陸移動が起こるためには、大陸リソスフェアとマントルとの粘性率の差が100倍から1000倍程度必要であることがわかりました。さらに、クラトンを取り囲む力学的に弱い変動帯、すなわち「縫合帯」が、地質学的な時間スケールでの大陸の「長寿命化」に大きな役割を果たしている可能性があります(A)。このことは、実際に、オーストラリア大陸の地震学的な構造解析と地質学的証拠に基づく推測と整合的です(B)。さらに、低粘性・低地震波速度のアセノスフェアの存在は、クラトンの底に作用する粘性抵抗力を減少させ、この効果もクラトンの長寿命化に寄与していると考えています。
- Yoshida, M., Formation of a future supercontinent through plate motion-driven flow coupled with mantle downwelling flow, Geology, 44(9), 755-758, 2016.
マントルの下降流が原動力となって将来の超大陸が形成されることを示した。 - Yoshida, M. and Hamano, Y., Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection, Sci. Rep., 5, 8407, 2015.
大規模数値計算によりパンゲアの分裂とその後の大陸移動の再現を試みた。 - Tajima, F., Yoshida, M., and Ohtani, E., Conjecture with water and rheological control for subducting slab in the mantle transition zone, Geosci. Front., 6(1), 79-93, 2015.
含水下のマントル遷移層まで沈み込むプレートと地殻層の挙動について調べた。 - Yoshida, M. and Santosh, M., Supercontinents, mantle dynamics and plate tectonics: A perspective based on conceptual vs. numerical models, Earth-Sci. Rev., 105(1?2), 1-24, 2011.
超大陸サイクルとマントルダイナミクスの関係について多角的に議論した。 - Adam, C., Yoshida, M., Isse, T., Suetsugu, D., Fukao, Y., and Barruol, G., South Pacific hotspot swells dynamically supported by mantle flows, Geophys. Res. Lett., 37(8), L08302, 2010.
南太平洋の仏領ポリネシア地域では、地球上でも特に規模が大きいホットスポットが集中し、リゾート地のタヒチ島などを作っています(A)。本研究では、三次元部分球殻モデルを用いたマントル対流の数値計算により、この地域の表層テクトニクスとマントルダイナミクスの関係を調べました。高解像度の地震波トモグラフィーモデルを計算に用いた結果、この地域で観測されるマントル対流起源の地形(いわゆる、ダイナミック・トポグラフィー)の大きな特徴を計算モデルで再現することができました(B)。また、計算結果を用いて、それぞれのホットスポットに対応すると考えられる個々の上昇プルームが運ぶ熱流量を理論的に見積もったところ、ホットスポットの空間的規模から独立に推定される熱流量と良い相関があることがわかりました。このことは仏領ポリネシア地域のホットスポットによる地形の高まり(ホットスポットスウェル)がマントルの上昇流に起源があることを定量的に示しています。 - Yoshida, M., Preliminary three-dimensional model of mantle convection with deformable, mobile continental lithosphere, Earth Planet. Sci. Lett., 295(1-2), 205-218, 2010.
マントル対流によって自由に変形・移動する大陸リソスフェアを考慮した三次元部分球殻内のマントル対流の数値シミュレーションモデルを世界に先駆けて開発しました。このシミュレーションでは、マントル対流は有限体積法で解いていますが、それに加えて、マントルと化学組成が異なる大陸構成物質の移流は追跡粒子法を組み合わせて解いています。シミュレーションの初期条件として、超大陸の周囲が変動帯(低粘性帯)に囲まれ、さらに超大陸内部にも変動帯がある場合を仮定しました(A)。実際にシミュレーションを行ったところ、熱遮蔽効果による大陸分裂、その後のマントル上昇流による大陸の離散、数億年後の大陸同士の衝突など、ウィルソンサイクルの鍵となる現象が再現されました(B)。一方、そのような変動帯がない場合には、大陸の離合集散は観察されませんでした。このことは、実際の地球の歴史における大陸の離合集散は、大陸リソスフェア内に力学的な不均質があることによって起こることを示してます。 - Seno, T. and Yoshida, M., Where and why do large shallow intraslab earthquakes occur?, Phys. Earth Planet. Int., 141(3), 183-206, 2004.
世界のスラブ内浅部大地震がどのようなテクトニクスの背景で起こるかを調べた。 -
Yoshida, M. and Kageyama, A., Application of the Yin-Yang grid to a thermal convection of a Boussinesq fluid with infinite Prandtl number in a three-dimensional spherical shell, Geophys. Res. Lett., 31(12), L12609, 2004.
2000年代初頭には、マントル対流を三次元全球モデルでシミュレートするための実用的なプログラムは外国で作成された有限要素法を用いたプログラムしかありませんでした。有限要素法は計算格子を自由に設定できるという利点がありますが、離散化された基礎方程式が直感的でないためユーザーがとっつきにくいという短所があります。また、スペクトル法という基礎方程式を波数展開する方法もありますが、粘性率の空間変化が大きなマントル対流を扱うには原理的にほぼ不可能です。そこで、本研究では、有限差分法(後に有限体積法に改良)を用いたプログラムの開発を行いました。その際、球座標系に沿った緯度経度格子でネックとなる「極の問題」、つまり、極での座標特異点の問題と、緯度方向の格子間隔が著しく不均一になる問題を克服した計算格子を用いました(A)。有限要素法と同じ基本パラメーターの下でマントル対流を計算し(B)、結果を解析したところ、本プログラムの正確性を確認することができました。