三次元球殻内マントル対流数値シミュレーション研究の展開

吉田 晶樹

 私は,地球内部の変動と進化,特にマントルダイナミクスとプレートテクトニクスに関する多岐にわたる課題を,主に数値シミュレーションの手法を用いて研究を行ってきました.私の研究姿勢の最大の特徴は,既存の計算手法や計算プログラムに頼らず,研究対象に応じて自らでそれらを開発してシミュレーションを実施してきたことです.特に,現実的な地球の物性や条件を考慮した三次元球殻マントル対流の数値シミュレーションにおいて,世界でも数グループしか存在しない大規模数値シミュレーション研究の一拠点として研究を進めてきました.
 代表的な成果につきましては以下で詳しく述べますが,簡潔に以下の4点に整理できると考えております.(1)有限体積法という大規模並列計算に最も有効な計算手法に基づいたマントル対流の数値シミュレーションの実現に突破口を開いたこと,(2)実際の地球で起こる大陸の離合集散を含むプレート運動を再現するマントル対流の数値シミュレーションを世界に先駆けて実施し,超大陸の分裂と大陸移動の原動力について再考をもたらしたこと,(3)(1)で開発したシミュレーションプログラムを用いて地球物理学的観測量を拘束条件とし,地球表層運動とマントル対流運動との動的関係性について多角的なアプローチで定量的に実証したこと,(4)世界で初めてマントルと外核を想定した低粘性層の熱対流運動を別々ではなく一つの系でシミュレートすることに成功し,そのカップリングの基本物理を解明する道筋をつけたこと―です.これらの代表的な業績は,研究開発手法と学問的意義の両面において固体地球物理学の進展に寄与できたものと自負しております.
 固体地球科学が扱う地球の表層や内部のさまざまな現象や観測事実は物理学等の基本原理に基づくモデルを立てて説明されることにより理解が深まることが多くあります.一方,そのような理解への努力は,今後も観測研究や実験的研究を中心として日進月歩で進展するだろう固体地球科学のさまざまな分野の研究指針にも影響を与えるものと信じております.例えば,地震学や測地学をベースとする地球観測研究,また地球年代学をベースとする地質学研究からは,時間的・空間的な情報は制限されますが,地球内部の長期変動やダイナミクスを理解するためには,それらの情報を補完するためのシミュレーション研究が必須であると考えます.
 現在の地球上で起こる地震や火山噴火,造山運動などの原因となるプレートテクトニクスを引き起こす原動力については,現在でも未解明の研究課題です.この原動力を解明して,地球内部の活動を把握するためには,マントル対流の数値シミュレーションが果たす役割は重要だと考えております.その理由は,1990年代初頭から進展した地震波トモグラフィーの手法によって,地表面から深さ約2900 kmまでを占めるマントルの対流運動の「スナップショット」が撮られるようになったものの,その細かい実態や地球史スケールの時間変動を解明するためには,現在でもマントル対流の数値シミュレーションが唯一の研究手段であるからです.
 実際の地球のジオメトリである三次元球殻内でのマントルの数値シミュレーション研究については,2000年以降に計算機能力の向上に伴って進展してきましたが,現在世界においても数グループが研究を行っている状況です.私は,研究対象に応じて独自に計算手法や計算プログラムを開発するという一貫した姿勢のもと,マントルダイナミクスとプレートテクトニクスを扱う学問分野に残された課題を幅広くカバーする研究を実施できたと考えております.
 以下では,私が特に重要だと考えている研究成果について詳しく述べたいと思います.

1 新しい計算手法を用いた三次元球殻内マントル対流シミュレーションプログラムの開発

 三次元球殻内マントル対流のシミュレーションで問題となるのは,球座標系に沿った緯度経度格子での「極の問題」,つまり,極が座標特異点になることと,緯度方向の格子間隔の著しい不均一性です.私は,これらを克服した独自の計算格子(インヤン格子)を用いて,大規模並列シミュレーションに最も有効な計算手法で拡張性も高い有限差分法や有限差分法に基づく実用的なシミュレーションプログラムの開発に2003年に世界で初めて成功しました[論文番号6,12,27].同時に,当時世界の数グループによってすでに開発されていた有限要素法やスペクトル法を用いた幾つかのプログラムの結果とベンチマークテストを行い,開発したプログラムの有効性を確認しました.このプログラムのベンチマークテスト結果は,その後に世界で開発された三次元球殻プログラムの正確性を確認するための重要な指標となっております.
 また,このプログラムによって得られた研究成果は,海洋研究開発機構における地球ダイナモシミュレーションの共同研究の成果に対する「SC2004ゴードン・ベル賞」(IEEE,米国電気電子学会)の受賞に大きな貢献を果たしました[論文番号9, 10].この計算プログラムは,その後も改良を続け,2007年にはマントル物質の粘性率の激しい水平粘性率変化,つまり,温度・圧力・応力依存性の影響に対して安定した数値シミュレーションが可能になりました[論文番号13,14].このインヤン格子を取り入れたマントル対流の数値シミュレーション手法は,1990年代に外国人によって開発された著名なマントル対流シミュレーションプログラムにも適用されるなど(Tackley, 2008, PEPI),国際的に大きな影響力を与えることができたと考えております.

2 数値モデルによる2億年前から現在・未来までの大陸移動の復元・予測

 次に重要だと考えている研究成果は,自らが開発したマントル対流の数値シミュレーションプログラムによって,世界に先駆けて大陸の離合集散を繰り返すウィルソンサイクルの原動力を解明するための研究を実施してきたことです.
 1910年代にアルフレッド・ウェゲナーが「大陸移動説」を提唱した当時は,大陸を移動させる原動力が分からなかったことから,一般に受け入れられませんでした.その後,大陸地塊の古地磁気研究や海底の地磁気異常の観測から,大陸が移動し海洋底が拡大したことが立証され,1960年代末のプレートテクトニクスの完成に至りました.やがて1990年代になって地震波トモグラフィーによって地球深部の全球構造が調べられるようになりましたが,地球表層のプレートや大陸の配置はトモグラフィーによるマントル対流のイメージとは必ずしも対応せず,マントルの対流運動によってプレートが受動的に駆動され大陸が運ばれるという単純なメカニズムではないことが示され,大陸移動の原動力の謎はより深まるばかりでした.この地球深部の活動を物理的に理解する上で,マントル対流のシミュレーションが重要な役割を果たします.
 しかし,これまでの研究においては,計算機能力や計算手法の制限により,大陸は剛体的で変形しない「板」のようにモデル化され,実際に地球で起こってきた大陸移動を再現することはできませんでした.私も大学院時代の1999年に,実際の地球マントルの物性条件とは程遠いものの,剛体的な超大陸を考慮したマントル対流の数値シミュレーションを世界で初めて三次元球殻モデルで実施しましたが[論文番号1, 2],その後,地球表層にプレートと大陸を持つ三次元球殻マントルの対流運動のシミュレーションを行えるまでには,多くの計算手法の工夫が必要であり,全ての問題を解決するのに結局10年以上の期間を必要としました.
 その間,2000年以降の計算機の進展により,実際の地球の条件下で剛体的な超大陸を考慮したマントル対流の数値シミュレーションを行うことができました.その結果,超大陸がマントルにとって「蓋」の役割をする熱遮蔽効果(毛布効果)によって超大陸下のマントルの温度が上昇し,また,超大陸の縁辺からマントル深部に沈み込む海洋プレートの反流によってコア・マントル境界から大規模なマントル上昇流が数億年の時間スケールで発生して半球規模のマントル対流パターンが形成されることが明らかになりました[論文番号16].しかしながら,この研究段階において実際の地球で起きる大陸移動の原動力を解明するには至りませんでした.
 そこでまず私は,2009年から新しい数値シミュレーション手法(拡散のない物質の移流をマントル対流の時間ステップ毎に精度良くかつ効率的にシミュレートする方法)の開発を始めました[論文番号18,22].2011年に,大陸を表面に持つ三次元球殻マントル対流のシミュレーションプログラムの開発を完了してシミュレーションを行った結果,超大陸が自発的に分裂を開始し,それぞれの大陸地塊が移動し,やがてそれらの大陸地塊が再び一つに集まって新しい超大陸が形成されるというウィルソンサイクルを再現することに成功しました.この結果により,ウィルソンサイクルの原動力が,マントルの熱対流運動のみならず,大陸プレート周辺の海洋プレートを含む地球上の全プレートが複雑に相互運動する結果であることを実証することができました[論文番号26, 30, 32].また,一連の私のシミュレーション結果と,これまでに得られているさまざまな地質学的証拠を併せると,地球史を通じて大陸移動とマントル対流の間には重大な熱的・力学的フィードバックがあることが確実になりました[論文番号20].
 そして最終的に,精密な地質学的・古地磁気学データから復元されている2億年前の実際の超大陸パンゲアの形を考慮したマントル対流の数値シミュレーションを2014年から実施しました.その結果,パンゲアが超大陸直下の高温異常とマントル深部からの大規模上昇流によって自発的に分裂して現在の大陸配置に至るという,2億年間の大陸移動の歴史を再現することに成功しました[論文番号35].そして,パンゲアの分裂から現在の大陸分布に至る大陸移動の過程で最も大きな出来事であるインド亜大陸の高速北進とユーラシア大陸への衝突が忠実に再現され,その原動力がパンゲア分裂直後にテーチス海北部に発達する下降プルームが起源となるマントルの大規模な流れであったことと,超大陸の熱遮蔽効果が約2億年前から始まったパンゲアの分裂の直接的な原因になったことを明らかにしました.この結果は,大陸移動の原動力として従来まで考えられていたスラブ引っ張り力だけではなく,表層のプレートや大陸の配置に規定される大規模なマントルの流れが大陸の底を引きずる「マントル曳力」も重要であることを初めて立証したことになります[論文番号37].また,同様のシミュレーション手法で,未来(約2億5000万年後まで)の大陸移動の様子と新しい超大陸の形状も予測することも可能となりました[論文番号21,38].以上の研究成果は,科学雑誌や新聞にも数多く取り上げられ,一般の方の地球科学への興味にも一役買うことができたと自負しております.

3 マントル・コア統合熱対流システムのダイナミクスと基本物理の解明

 地球のマントルとコアとの熱対流運動の実態や基本物理を解明しようとするとき,地球全体を一つの熱対流システムと考える必要があります.それは,例えば,地球環境変動や生命進化にも影響を与える地球磁場の変動はコアの熱対流運動と相互作用し,さらに地球の歴史を通じてマントルの活動とも相関があることが知られているからです.しかしながら,世界ではこれまで,マントル対流と外核対流の数値シミュレーションは異なる研究者が独立に実施してきました[論文番号10].その理由は,岩石からなる固体のマントルの粘性率と流体鉄合金からなる外核の粘性率が約23桁も異なるために流れの状態が大きく異なり,マントルと外核の熱対流運動をシミュレートする際の計算手法が全く異なること,そして,構成物質の粘性率と流れの時間スケールが桁で大きく異なるマントルと外核を一つに「統合」したシステムにおける熱対流運動をシミュレートするためのモデリング手法のアイデアが存在しなかったためです.
 私は2014年からマントル対流シミュレーションを基軸とした手法によって,地球のマントルと外核を想定した二層間の熱対流運動が相互作用し合う様子を再現することに成功しました[論文番号39].その結果,外核の粘性率を小さくするにつれて,二層間のカップリングモードが「力学カップリング」から「熱カップリング」に遷移することを定量的に確認した.さらに,高粘性のマントルの対流がCMB直下の外核最上部の流れを引きずって遅くする効果によって,外核の対流が非常に活発であるにもかかわらずCMBでの熱流量が抑制され,マントル対流のパターンが時空間的に安定に保たれることがわかりました.この成果は,地球誕生時から地球深部に蓄えられている熱が地球史を通じて適度な効率で宇宙空間に排出され,地球をゆっくりと冷却しているメカニズムの最大要因を解明したという点で重要だと考えます.
 以上の@からBの研究成果に加えて,私は,国内外の地震学や地質学,テクトニクスの研究者と連携し,最新の地球物理学的観測データを最大限に活用したシミュレーション研究を実施し,幾つかの重要な成果を挙げることができました.以下では,それらの成果のうち私が主体的役割を果たした共同研究で,特に重要だと考える成果について述べたいと思います.

4 南太平洋のホットスポット・スウェルの起源とマントルダイナミクスの解明

 最も大きな成果は,海洋研究開発機構が日仏共同で実施した国際プロジェクトである,フランス領ポリネシア海底地震観測・上昇プルームの実態解明(Suetsugu et al., 2009, G-Cubed)の一環として,ホットスポットが集中する南太平洋下のマントルダイナミクスを解明したことです[論文番号17].高解像度の地震波トモグラフィーデータに基づいて,マントル内部の速度場と表層地形のパターンをこの地域に限定したシミュレーションモデルで計算した結果,南太平洋下のマントル上昇流の複雑な挙動やホットスポット・スウェルの起源を説明することができました.また,各ホットスポットに対応する上昇プルームが運ぶ熱流量を理論的に推定したところ,従来の観測結果による推定値と強い相関があることがわかりました.これらの成果は地球表層の観測量とその直下のマントルの対流運動との直接的な関係を示唆するものであり,地表で観測されるメジャーな地学現象が上部マントル最上部のダイナミクスで説明可能であるという,多くの証拠に基づいた最近の議論(Anderson, 2011, J. Petrology)と調和的な結果です.本研究により,この問題の定量的議論の活性化に一役買うことができたと考えております.
 さらに私たちは,このモデル領域を全マントルに拡張し,上部・下部マントルそれぞれの密度異常やマントルの粘性構造の違いが南太平洋上の大規模地形やジオイド異常の振幅・パターンに及ぼす影響について系統的なパラメータ・スタディで調べました.その結果,南太平洋スーパースウェルの起源は下部マントルの密度異常に起源を持つマントルの高速の上昇流によるもので,特に低粘性のアセノスフェアが存在する場合にスーパースウェルとジオイド異常の両方の正負の振幅パターンが説明できることを明らかにしました[論文番号31].

5 マントル遷移層における海洋プレートと海洋地殻層の三次元的挙動の解明

 次に重要だと考える成果は,最新の深部マントル物質の高温高圧実験の結果に基づいて,海洋地殻層とハルツバーガイト層を考慮したプレート沈み込みの三次元数値シミュレーションを実施し,マントル遷移層における海洋プレートと地殻層の挙動の解明を試みたことです[論文番号23,28,29,34].その結果,マントル遷移層に水が豊富な条件と枯渇した条件では,海洋プレートと地殻層の挙動の違いが顕著であることが分かりました.1990年代初頭から日本や世界の多くの地震学者が地震波トモグラフィーで画像化している東アジア下のスタグナントスラブ(深さ660 km付近で水平に横たわっているスラブ)を再現するためには,上部・下部マントルの粘性率比が60〜100倍程度必要であることが明らかになりました.また,スタグナントスラブが下部マントルに沈み込み始める過程において,地殻層がハルツバーガイト層と分離することなく一体となって大きく屈曲しながら下部マントルに沈み込む様子が確認されました.さらに,スタグナントスラブが下部マントルに沈み込み始めた後も,微量の体積の地殻層とハルツバーガイト層が少なくとも数千万年以上に渡ってマントル遷移層底部に滞留し続けることも明らかになりました.これらの成果は,現在の地震波トモグラフィーの技術においても十分に解像できない程度の小規模スケールの沈み込みプレートの挙動に対する理解を深め,また,従来から考えられている全マントル対流のイメージを更新するものであると考えます[論文番号33].
 以上のCとDの成果のほか,観測ジオイドやプレート運動データを用いたマントルの粘性率構造の推定[論文番号3,7,15],コア・マントル境界から発生するプルーム熱流量の推定と地球の熱収支の考察[論文番号11,24],プレート内応力場データ等を拘束条件とした大西洋アゾレス海台下のマントル構造の推定[論文番号25],全地球の水深データ等を拘束条件としたマントルの対流運動と海洋リソスフェアの成長との関係解明[論文番号36],スラブ内浅発大地震の発生地域と表層テクトニクスとの関係解明[論文番号4]―などに関して新しい知見が得られました.これらも,私のプログラムの利点を最大限に活かした成果,あるいは新しいマントルダイナミクス像に基づく成果であり,地球表層運動と地球内部ダイナミクスとの動的関係性を多角的なアプローチで実証したのみならず,今後,双方の問題を扱う学問分野が融合して固体地球科学の新たな学問体系を構築する上で重要な指針を与えるものと信じております.
 今後もこれまでの研究実績と経験を活かして,地球惑星科学の他分野の研究者にインパクトと議論の活性化を常にもたらし,地球46億年の内部構造進化と表層環境史の全容解明に向けた革新的な研究成果を生産し,固体地球物理学にとどまらず,自然科学分野に広く関わるシミュレーション科学をも世界の最先端でリードし続ける研究者でありたいと考えております.