パンゲア時代から現在までの2億年間のマントル対流の数値シミュレーション

本ページの内容は2015年2月12日に発表したプレスリリース文の改訂版です。

本研究のポイント

  • スーパーコンピューターを用いたマントル対流の計算機シミュレーションによって、約2億年前から始まったとされる超大陸パンゲアの分裂から現在までの大陸移動の様子と、地表からは直接に観測できない地球内部の流れの様子を再現することに世界で初めて成功した。
  • 超大陸パンゲアの一部であったインド亜大陸の高速北進とユーラシア大陸への衝突が忠実に再現され、その原動力がパンゲア分裂直後にテーチス海北部に発達する下降プルームが起源となるマントルの大規模な流れであったことが明らかになった。
  • 超大陸の熱遮蔽効果(マントル内部に存在する放射性熱源によって超大陸直下のマントルが温まる効果)が、約2億年前から始まったパンゲアの分裂の直接的な原因になったことが明らかになった。

概要

 私たちは、スーパーコンピューターを用いた三次元全球内のマントル対流の計算機シミュレーションによって、約2億年前から始まった超大陸パンゲアの分裂から現在までの大陸移動の様子と、地表からは観測できない地球内部の流れの様子を再現することに世界で初めて成功しました。
 本研究のために開発したマントル対流のシミュレーションモデルは、従来のモデルとは異なり、大陸がマントル対流の動きで自由に変形しながら移動できるもので、過去の地球上に存在した大陸の挙動を正確に再現できる画期的なものです。
 これによって、アルフレッド・ウェゲナーの「大陸移動説」以来、100年間の謎であった超大陸の分裂と、その後の大陸移動の主要な原動力が、大陸直下のマントルの流れによるマントル曳力であることが明らかとなりました。この結果は、過去にJAMSTECが実施した大規模地下構造調査に基づく観測結果を強く裏付けるものです。
 パンゲア分裂以降の大陸移動の歴史で最もよく知られたイベントは、パンゲアの南半分を構成していたゴンドワナ大陸から分裂したインド亜大陸がテーチス海を高速で北上し、北半球でユーラシア大陸に衝突した後、ヒマラヤ・チベット山塊を誕生させたことです。本研究のシミュレーション結果では、このインド亜大陸の高速北進も忠実に再現され、その原動力が、パンゲア分裂直後にテーチス海北部に発達する下降プルームであったことが明らかになりました。
 ヒマラヤ・チベット山塊はアジアにモンスーンという気候システムをもたらしただけでなく、最近1000万年間の地球規模の寒冷化にも寄与しています。今回、インド亜大陸の高速北進とヒマラヤ・チベット山塊形成の原動力が分かったことは、現在の地球における気候システムの起源の解明に向けても、重要な進展をもたらすと考えられます。
 なお、本研究は、日本学術振興会科研費23340132(基盤研究(B))の一環として実施されたものです。本成果は、英国「Nature」姉妹誌の「Scientific Reports」(電子版)に2015年2月12日(日本時間)付けで掲載される予定です。

タイトル:Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection

著者:Masaki Yoshida and Yozo Hamano

背景

 地球上にかつて存在していた超大陸「パンゲア」は約2億年前に分裂を開始しました。パンゲアが分裂し、現在の地球の六大陸が形成される過程で顕著なイベントの一つは、パンゲアの南半分を構成していたゴンドワナ大陸の一部であったインド亜大陸がテーチス海を高速で北上してユーラシア大陸に衝突し、現在もなお北上を続けていることです。この衝突によってかつてはテーチス海の海底であった場所が隆起し、「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤ山脈とチベット高原が形成され、周辺の東アジアの地震や地殻変動を引き起こしています。一方で、インド亜大陸の衝突によって生じたヒマラヤ山脈・チベット高原の隆起は、アジアモンスーン気候の成立に寄与し、新第三紀以降の地球規模の寒冷化をもたらしています。このように現在の地球の活動に多大な影響を与えているインド亜大陸の北上(図1)は、現代地球科学において重大な関心事ですが、その原因は未だ解明されていませんでした。
 JAMSTECでは、地球深部探査船「ちきゅう」等による海洋掘削を実施することによって新たな地球内部の動態解明を目指していますが、大陸移動と密接な関係がある地球表層及びマントルの大規模循環の長期的変動やその原動力をより詳しく理解するためには、地球内部で起こっている対流運動の計算機シミュレーションを実施し、海洋掘削で得られた地球表層のさまざまな地球科学的情報を補完することが必要不可欠です。現在の固体地球科学では、マントル深部のダイナミックな活動を物理的に理解する上で、マントル対流の計算機シミュレーションは重要な一翼を担っています。しかしながら、これまで、吉田主任研究員を含め世界の研究グループが行ってきた計算機シミュレーションでは、計算機能力や計算手法の制限により、大陸を簡単な形状を持つ剛体的な「板」のようにモデル化したり、実際の地球のマントルとかけ離れた物性パラメーターで計算したりするなど、実際の地球で起こってきた大陸移動を再現するには程遠く、また、大陸移動の原動力を特定するには至りませんでした。


図1:精密な地質学的・古地磁気学的データ(Seton et al., 2012, Earth-Sci. Rev.)で推定されているインド亜大陸の高速北進の様子。2億年前(200 Ma)から現在(0 Ma)までのインド亜大陸の輪郭が描かれている。

成果

 本研究では、JAMSTECが所有するスーパーコンピューター(SGI ICE X)を用いて、精密な地質学的・古地磁気学的データによって復元された2億年前の超大陸パンゲアの形状データと、実際のマントルの物性パラメーターを考慮した三次元全球内のマントル対流の大規模計算機シミュレーションを世界で初めて実施し、2億年前から現在までの大陸移動の様子を調べました。本研究で用いたシミュレーションモデルでは、独自の手法を用いることにより、パンゲアを構成する各大陸ブロックはマントル対流の力で自由に変形しながら移動できるようにモデル化されています。
 さまざまな物性パラメーターを変化させて系統的なシミュレーションを実施した結果、粘性率の高い大陸と海洋マントルとの粘性率の比が103の場合に、実際の地球の時間スケールで、大西洋の拡大やインド亜大陸の高速北進とユーラシア大陸への衝突など、パンゲア分裂後の地球表層の“大イベント”が再現され、計算開始から2億年後に、現在の地球に近い大陸配置が再現されました(図2)。
 特に、パンゲアの分裂は超大陸の熱遮蔽効果(いわゆる、毛布効果)によるパンゲア直下のマントルの高温異常(本モデルでは、空間的に一様に約67℃高温にしている)が大きく寄与することが分かりました。これはパンゲアの下に溜まった熱を「裂け目」を作ることによりマントルから地表へ吐き出す必要があるためです。また、パンゲアの一部であったインド亜大陸の高速北進の主要な原動力は、パンゲア分裂直後からテーチス海北部に発達する下降プルーム(表層の低温の熱境界層の沈み込み)であることが明らかになりました。その下降プルームは、パンゲア直下のマントルの高温異常、及び、パンゲアの下(現在のアフリカ大陸の下)のマントル深部に元々存在していた大規模な上昇プルームに励起されるマントルの大規模な流れによって、テーチス海北部のローラシア大陸の縁(大陸・海洋境界)に自発的に形成されます(図4)。何より、沈み込み帯を持たないインドプレートが、ユーラシア大陸に衝突後、現在もなお北上を続けていることは、大陸移動の原動力がこの下降プルームである何よりの証拠です。なお、地震波トモグラフィーの手法で画像化された現在のマントルの三次元地震波速度構造分布から、この下降プルームに起因すると思われる地震波高速度領域(低温領域)がマントルの奥深く(深さ約1500 km付近まで)に存在することが確認されています(図5)。
 プレートに働くさまざまな力について定量的に議論されるようになった1970年代半ば以降、大陸・海洋プレートの移動の主要な原動力は、マントル中に沈み込む海洋プレートの「スラブ引っ張り力」で、マントルがプレートの底を引きずる「マントル曳力」はスラブ引っ張り力よりも小さいと考えられてきました(図6a)。しかし、本研究のシミュレーション結果によって、大陸移動の主要な原動力として、スラブ引っ張り力に加えて、大陸直下のマントルの流れによるマントル曳力も重要であることが明らかになりました(図6b)。
 JAMSTECでは2014年に、北海道南東沖の太平洋プレート上において、地下構造探査システム、及び海底地震計を用いて地殻と上部マントルの大規模構造調査を実施した結果、海洋プレートが生成され拡大する場所で、プレートがマントル対流によって駆動されて移動していることを証明する構造(断層)があることを発見しました。本研究のシミュレーション結果は、この観測事実に基づく新しいプレート運動の原動力の考え方を強く裏付けるものであり、プレートが生成される場所だけではなく、プレート全体がマントル曳力によって駆動されている可能性を示唆します。
 ドイツの気象学者であったアルフレッド・ウェゲナーは、1915年に『大陸と海洋の起源』という1冊の著作で「大陸移動説」を発表しました。本研究により、ウェゲナーの「大陸移動説」の完成からちょうど100年、つまり現代地球科学の幕開けから100年という節目の年に、超大陸パンゲアの分裂、それ以降の大西洋の拡大、そして現在の地球の大陸配置が、マントルの熱対流運動を支配する物理法則のみによって再現されることが計算機シミュレーションによって世界で初めて実証できたことになります。


図2:本研究のシミュレーション結果の一例。地球表層の大陸分布の時間変化を表す。(a)2億年、(b)1億5000万年前、(c)1億年前、(d)現在。



図3:図2の各年代に対応するマントル内部の温度構造の三次元プロット。青色の等値面は各深さの平均温度よりも250°C温度が低く、黄色の等値面は100°C温度が高い。表層のオレンジの領域は大陸の位置。



図4:インド亜大陸の高速北進のメカニズムを示した模式図。



図5:(左)全マントルP波トモグラフィー(Zhao et al., 2013, Gond. Res.)で画像化された、現在のインド亜大陸から地中海の下に存在する地震波高速度異常領域。



図6:プレート運動・大陸移動の原動力に関する二つの考え方。(上)1970年代半ば以降の考え方(Forsyth and Uyeda, 1975, Geophys. J. R. Astron. Soc.)。この場合、「マントル曳力」(マントルがプレートの底面を引きずる力)はスラブ引っ張り力よりも小さく、また、プレート運動・大陸移動の抵抗力として働く。(下)本研究のシミュレーション結果に基づく考え方。この場合、「マントル曳力」はプレート運動・大陸移動の原動力として働く。Jain (2014, Fundamentals of Physical Geology)の図に加筆。

今後の展望

 大陸の離合集散は、地球表層のプレート運動や地球内部のマントル対流の振る舞いと密接な関係があります。これが実際の地球環境下でのマントル対流の計算機シミュレーションによって再現されたことは、地球内部活動の実態解明に向けた今後の研究進展に重要な貢献をなす研究成果です。また、大陸の離合集散は、地球の歴史において地球表層環境や生命進化にも多大な影響を及ぼしてきたと考えられるため、固体地球科学の周辺分野に存在するさまざまな未解決問題を解くための突破口となる可能性を秘めた研究成果でもあります。
 今後は、より現実的な岩石力学・レオロジーを考慮したシミュレーションモデルを用いて、現在の地球の大陸配置をより正確に再現するために必要なパンゲア時代のマントル深部のより詳細な温度構造(例えば、パンゲアの縁辺に発達していたと考えられる沈み込み帯からマントル深部に沈み込んだ低温の海洋プレートの分布など)を特定することが期待されます。また、将来的には、パンゲア分裂以降の地球史における大イベントの1つである、約4300万年前に起こった太平洋プレートの運動方向の急変の原因など、マントル対流に起因するさまざまな固体地球科学現象のメカニズムの解明にも繋がるものと考えられます。
 本研究のシミュレーション結果と上記の地下構造調査の結果により、大陸移動とプレート運動の主要な原動力の考え方が40年ぶりに見直されようとしています。今後も、地球深部掘削や地下構造調査、地震波トモグラフィーなど、異なる固体地球科学的研究手法を扱っている研究グループと連携・情報交換をして、大陸移動とプレート運動の原動力やメカニズム、及び、それらによってもたらされるさまざまな地学現象(プレートの生成や沈み込み、造山運動、地震・火山噴火活動)のメカニズムをより深く理解するための統合的な地球モデルを構築していく予定です。

参考文献

  • Masaki Yoshida and Yozo Hamano, Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection, Scientific Reports, 5, 8407, doi:10.1038/srep08407, 2015.
  • 吉田 晶樹 (Masaki Yoshida), プレート運動と大陸移動の原動力―再考(Driving forces of plate motion and continental drift: Revisited), 『地質学雑誌』(The Journal of the Geological Society of Japan), 121(12), 429-445, doi:10.5575/geosoc.2015.0031 (direct link to PDF before official publication), 2015a.
  • 吉田 晶樹 (Masaki Yoshida), 大陸とプレートを動かす力とは何か──大陸移動説“完成”から100年目で分かっていること(What forces drive continents and plates?: What we know in the 100th year of the establishment of the continetal drift theory), 『科学』(Kagaku), 特集「大陸移動説からプレートテクトニクスへ──『大陸と海洋の起源』100年」, 85(7), 692-704, 2015a. [表紙・目次付きPDF]

補足

 本ページの内容は、2015年2月12日にJAMSTECからプレスリリースした「スーパーコンピューターでパンゲアの分裂から現在までの大陸移動を再現し、その原動力を解明」の内容を一部改訂した解説です。
 改訂したポイントは以下の通りです。
  • 「コールド(ホット)プルーム」の用語を分かりやすくするため、「下降(上昇)プルーム」に変えた。
  • 図5を最新の全マントルP波トモグラフィーに基づく図に変え、比較のためにS波トモグラフィーに基づく図も加えた。
  • 論文内容を正確に説明するために、大陸移動の主要な原動力として、スラブ引っ張り力に加えて、大陸直下のマントルの流れによるマントル曳力も重要であることを強調した。