沈み込んだプレート内の浅発大地震が発生するテクトニックな背景の解明

概要

 まさにマントルに沈み込もうとしている海洋プレートの内部のごく浅い場所(概ね深さ20 km以下)では頻繁に地震が起きているが、沈み込んだ海洋プレート(スラブ)内の浅い場所(概ね深さ20〜60 km)で起こる大地震(マグニチュード7級以上)は20世紀以降でもごくわずかしか起きていないと思われる(全世界で平均して2年に1回程度)(図1)。そのうち最もマグニチュードが大きな地震は1994年の北海道東方沖地震(Mw8.3)である。
 従来、スラブ浅部では、M7程度かそれ以上の大地震は滅多に起きないと思われていたが、21世紀になってエルサルバトル(Mw7.7)、ワシントン州(Mw6.8)、安芸灘(Mw6.8)において相次いで起こった。
 本研究では、この「スラブ内浅発地震」を調べ、これらが発生している地域では、いくつかの例外はあるものの、スラブは伸張応力を示すが、上盤プレートの背弧も伸張応力をとなるというテクトニックな特徴を発見した(Seno and Yoshida, 2004)。
 まれにしか起きないがひとたび起きれば人間活動に大きな被害が及ぶことが予想されるスラブ内浅発大地震のメカニズムがマントルダイナミクスと関係することは、実際に観測される地球表層活動と、数値シミュレーションや岩石の地球化学解析、地震波トモグラフィーなどから間接的にしか分からない地球内部活動との関係を紐解くきっかけとなるかもしれない。


図1:スラブ内浅発大地震の場所と地震のメカニズム。Seno and Yoshida (2004)では、Global CMTカタログや個々の文献から20のイベントを抽出している。

スラブ内浅発大地震が起きる背景

 クリル海溝(十勝沖・根室沖・色丹島沖・択捉島沖)では
 ・1958年11月7日のM8.1、Mw8.3の地震
 ・1994年10月4日のM8.2、Mw8.3の地震(北海道東方沖地震)
のみしか確認されていない。
 なお、1958年の地震は最近までプレート間地震とされていた(宇津, 1972;Harada and Ishinashi, 2000)。地震本部の「海溝型地震の長期評価」の資料によると、この1958年の地震のさらに前にクリル海溝で起こったスラブ内浅発地震は歴史文書に記録が残る1839年5月1日の釧路沖地震のようである(理科年表によるとM≒7.0)。
 クリル海溝やスマトラ海溝、マニラ海溝ではスラブ内は伸張場(DDT、ダウンディップ・テンション、スラブが沈み込む方向にT軸が揃う)で、上盤プレートの応力は圧縮場となっている。一方、それ以外のほとんどの地域では、同じようにスラブ内は伸張場(DDT)であるが、上盤プレートは海溝に近付くにつれて伸張場から圧縮場に変化する応力場の勾配が見られる。図2は後者の例として、南海トラフと琉球海溝が九州南東沖で接続する西南日本弧、南マリアナ海溝、メキシコ海溝の例であり、上盤プレートの背弧ではσHmax(水平最大主応力)軸方向が海溝軸の方向に垂直となる正断層、前弧ではσHmaxの軸方向が海溝軸の方向に平行となる逆断層が卓越している
。前者と後者の場合のスラブ内と上盤プレートの応力場の関係はそれぞれ図3のaとbのようになる。
 ボニン海溝やトンガ海溝のようにスラブ内が圧縮場(DDC、ダウンディップ・コンプレッション、スラブが沈み込む方向にP軸が揃う)である地域(図3c)、日本海溝やカムチャッカ海溝のようにスラブ内が中立の応力場である地域(図3d)では、上盤プレートの背弧が伸張応力場を示し、スラブ内浅発大地震が起きていない。



図2:上から、西南日本弧、南マリアナ海溝、メキシコ海溝での上盤プレートの応力場の分布。σVは鉛直主応力値、σHmax(=σH)は水平最大主応力値、σHminは水平最小主応力値。実線、破線、点線は最大水平主応力軸の方向で、それぞれの主応力値の関係に基づいて逆断層、横ずれ断層、正断層と定義される。




図3:スラブ内浅発大地震が起きる地域でのスラブ内と上盤プレートの応力場の関係。プレート内の矢印は力がかかる方向、マントル内の矢印は流れの方向を示す。

 最近、Harada and Ishibashi (2008)は、1993年8月8日(深さ67 km、Mw7.8)、2001年10月12日(深さ62 km、Mw7.0)、2002年4月26日(深さ69 km、Mw7.1)の南マリアナ海溝(グアム)の三つの地震がプレート間地震ではなくプレート内地震であるとしている。これらの地震の震源の深さは深さ60 kmよりも少し深いが、震源メカニズムはいずれもDDTを示しており、図2bのようなスラブ内と上盤プレートの応力場の関係がある背景で説明できるのだろう。

議論

 以上の説明はあくまでスラブ内浅発大地震が起きる地域のテクトニックな背景であるが、地震そのものの発生メカニズムはスラブ内の蛇紋岩化による脱水不安定が大きく関与すると言われ、これに関しては、Seno et al. (2001)、Yamasaki and Seno (2003)などの議論が役に立つのだろう。

参考文献

  • Harada, T. and K. Ishibashi, The 1958 great Etorofu earthquake was a slab event: suggestion from the mainshock-aftershock relocation, EOS, Vol. 81, No. 22 Suppl. WP157, Western Pacific Geophysics Meeting, 2000.
  • Harada, T. and K. Ishibashi, Interpretation of the 1993, 2001, and 2002 Guam Earthquakes as Intraslab Events by a Simultaneous Relocation of the Mainshocks, Aftershocks, and Background Earthquakes, Bulletin of the Seismological Society of America, 98(3), 1581-1587, 2008.
  • Seno, T and M. Yoshida, Where and why do large shallow intraslab earthquakes occur?, Physics of the Earth and Planetary Interiors, 141(3), 183-206, doi:10.1016/j.pepi.2003.11.002, 2004.
  • Seno, T. D. Zhao, Y. Kobayashi and M. Nakamura, Dehydration of serpentinized slab mantle: Seismic evidence from southwest Japan, Earth, Planets Space, 53, 861-871, 2001.
  • 宇津徳治(1972), 北海道周辺における大地震の活動と根室南方沖地震について, 地震予知連絡会報, 7, 7-13.
  • Yamasaki, T., and T. Seno, Double seismic zone and dehydration embrittlement of the subducting slab, J. Geophys. Res., 108(B4), 2212, doi:10.1029/2002JB001918, 2003.
  • 「海溝型地震の長期評価」, 政府 地震調査研究推進本部ウェブページ.

その他ウェブ上の資料